診療受付時間

8:00〜11:30(平日)※新患受付は10:30まで

休診日

土・日・祝日創立記念日(2024年度は6月14日(金))
年末年始(12月29日〜1月3日)

面会時間

14:00~18:00(平日・土・日・祝日)

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がん診療について

目次

① がん治療の取り組み

我が国は男女とも世界有数の長寿国ですが、長生きのする間に2人に1人はがんになり、3人に1人はがんで亡くなる現実があります。がんの治療成績が向上することは患者さんの希望であり、がん治療を担当する医療人の目標です。 がん治療のために、外科治療(手術)、放射線治療、化学療法(抗がん剤)の単独または併用の専門的治療が必要です。横浜南共済病院は、「地域がん診療連携拠点病院」に指定され、質の高いがん医療を提供するために、専門的ながん治療に加えて、がん診療の地域連携協力体制の構築、がん患者・家族に対する相談支援及び情報提供することが求められています。当院では、がん診療支援委員会が中心となって、患者さんが最適ながん診療を受けられるように、医療の情報共有と高度医療の提供、がん診療体制の充実および地域との連携活動を推進しています。

② 各臓器のがん治療の担当科について

*詳細は各診療科のホームページを参照ください。がんの種類によっては、検査や診断した後、治療を大学病院など他院に紹介させていただくことがあります。

③ がんサロン

がん患者さんやご家族が悩みや体験を語り合い交流や情報交換などにご利用頂いています。また患者さん、ご家族だけでなく地域の皆さまに向け、がんについての情報提供として毎回テーマを決めてミニ講座の開催(月1回)も致します。情報収集や、交流の場としてご活用ください。開催が決まりましたら、ホームページ、院内掲示などでご案内いたします。

・ミニ講座開催日時: こちらからご確認いただけます。
・集合場所: 外来棟1階 理容室前

がんサロン
がんサロン
がんサロン

④ ACP(人生会議)について

~自らが望む、人生の最終段階の医療・ケアについて話し合ってみませんか~

もしものときに備えてあなた自身が希望する医療やケアについて、前もって考え繰り返し話し合い共有する取り組みを「人生会議(ACP: アドバンス・ケア・プランニング)」といいます。
誰でも、いつでも命に関わる大きな病気やケガをする可能性があります。
命の危険が迫った状態になると、約70%の方が医療やケアなどを自分で決めたり、望みを人に伝えたりすることができなくなるといわれています。
自らが希望する医療やケアを受けるために、大切にしていることや望んでいること、どこでどのような医療やケアを望むかを自分自身で前もって考え、周囲の信頼する人達と話し合い、共有することが重要です。
病気になると、治療や生活などについて不安になることがあると思います。
今後の治療のことや大切なことをご本人やご本人にとって大切な方と一緒に考えていきたいと思っています。そして治療のことだけではなく、生活の中で大切にしたいことを私たち医療者に伝えてください。気持ちや考えはその時々で変化しますので、繰り返し話し合っていきましょう。

がん相談支援センター
電話 045-782-2140(直通)

⑤ ゲノム医療について

1.がん治療の進歩について

これまでのがん医療では、肺がん、大腸がん、乳がんなど、臓器別に治療や薬が選ばれていました。最新の治療は、がんの種類だけではなく、遺伝子変異などのがんの特徴に合わせて、一人一人に適した治療(個別化治療)を行うことができるようになってきました。肺がん、大腸がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんなど一部のがんでは、がん遺伝子検査を行い、1つまたはいくつかの遺伝子を調べ、検査結果により薬を選んで治療することが始まっています。

2.ゲノムとは

細胞の核の中に存在するDNAの塩基配列は遺伝情報を含み、人の体の設計図のようなもので、この遺伝情報全体を意味する言葉がゲノムです。人それぞれの体質が異なるのはゲノムの個人差があるからです。原則的には体のすべての細胞は同じDNA塩基配列を持っていますが、がん細胞ではDNA塩基配列に変化(変異)が生じます。

3.がんゲノム医療とは

がんゲノム医療とは、遺伝子情報に基づくがんの個別化医療の1つです。がんの組織や患者さんの血液を用いて、一つまたは多数の遺伝子を同時に調べ、遺伝子の変化(変異や多型を含むバリアント)などのがんの特徴に合わせた抗癌剤を投与する、一人一人に適した治療を行う医療です。

4.遺伝子検査の種類について

ゲノム検査には、少数の遺伝子を調べる「がん遺伝子検査」と、多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」があります。

がん遺伝子変異検査(コンパニオン診断)

腫瘍組織や血液で1つまたはいくつかの特定の遺伝子を調べて、診断や治療薬の選択や治療効果の判定に利用します。現在、白血病、肺がん、大腸がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんなど一部のがんで行われています。実際の検査では、使用を検討している薬に合わせた遺伝子変異を調べる診断キットを用いて、1回の検査で1つまたはいくつかの遺伝子(マイクロサテライト不安定の検査など)の変化の有無を調べます。検査の結果、遺伝子の変化がある場合には、標準治療に基づいて、その遺伝子変異に合った薬を選んで治療を行います。
また、血液検査によるがん遺伝子検査(BRCA遺伝子など)の場合は、遺伝子異常の陽性所見がある場合は、血縁者にも遺伝する可能性があります。遺伝子検査を行う前に、患者さんに遺伝情報を取り扱う検査であること、陽性であった場合には患者や家族の希望に応じて大学病院などの遺伝相談を紹介できることを十分に説明します。なお、当院は横浜市大病院大学病院遺伝子診断科と診療連携を結んでいます、遺伝子相談をご希望の場合は、横浜市大病院へご紹介します。

がん遺伝子パネル検査

生検や手術などで採取されたがんの組織や血液を用いて、高速で大量のゲノムの情報を読み取る「次世代シークエンサー」という解析装置で、1回の検査で多数(100以上)の遺伝子を同時に調べます。治療に合う薬がある見つかる可能性があります。その一部が保険診療として、標準治療がないまたは終了したなどの条件を満たす場合に行われています。当院では検査が出来ないため、がんゲノム医療拠点病院である横浜市大病院(がんゲノム診断科)または神奈川県立がんセンター(がんゲノム診療科)へ依頼します。

5.がん遺伝子パネル検査の対象者・留意点

現在の保険診療では、がん遺伝子パネル検査は誰でも受けられるわけではありません。 ①標準治療がない固形がん(造血器腫瘍は含みません)、②局所進行もしくは転移があり、標準治療が終了した(終了見込みを含む)固形がんの方で、次の新たな薬物療法を希望する場合に検討します。また、全身状態などの条件もあります。検査の結果、治療に結び付く遺伝子の変化が見つからない場合もあります。
がん遺伝子パネル検査結果は、がんゲノム医療拠点病院の複数の専門家で構成される委員会(エキスパートパネル)によって検討されます。がんの種類にもよりますが、治療選択に役立つ可能性がある遺伝子の変化は、約半数の患者さんで見つかります。遺伝子の変化があっても、適切な薬がない場合もあり、検査を受けて自分に合う薬の使用(臨床試験を含む)に繋がる人は全体の10%程度と言われます。また、免疫チェックポイント阻害薬という新しい抗がん剤の効果予測判定が出来る場合もあります。がん遺伝子パネル検査を実施しても遺伝子変異がなかった場合には、ほかの治療を検討することになります。
また、血液の遺伝子パネル検査では、多くの遺伝子を調べるため、本来目的とする個別化治療とは別に、3~5%でがんになりやすい遺伝子をもっていることがわかる場合があります。この情報は、将来の健康に対する不安が生じる可能性があり、結果を聞かなくても構いません。結果を聞く場合にも、十分な理解ができるように、遺伝診療科の専門家から説明を受けることになります。

6.遺伝子パネル検査の実際

検査検体

手術や検査で摘出された検体の場合は、手術後2年間はまず問題なく結果が得られます。3年を過ぎると検査結果が得られない症例が出てきます。針生検のような小さな検体では十分な検査結果が得られない場合もあります。

費用:検査のみで56万円(自己負担3割の場合:約17万円)
期間:検体提出から検査結果が得られるまで約2ヶ月かかります。

⑥ 妊孕性(不妊治療)について

妊よう性とは、「妊娠するための力」のことで、女性にも男性にも大切なことです。妊娠するためには卵子と精子が受精することが必要で、卵巣、子宮、精巣などが重要な役割を果たしています。妊娠に関わる臓器にがんができて摘出する場合や、他の臓器にがんができた場合や抗がん剤や放射線治療の副作用によって、生殖機能が障害され妊娠するための力が弱低下したり、失われることがあります。
がん治療の進歩により、多くの若い患者さんががんを克服できるようになってきています。最近では、将来自分の子どもをもつ可能性を残すために、卵や精子、受精卵を凍結保存する「妊よう性温存」という方法も利用可能となりました。がんの治療を優先することが大前提ですが、将来子どもをもつことを望むのか、その可能性を残しておくかを治療前に考えてみることも大切です。
将来子どもをもつことについて考えるためには、担当医に気持ちを伝え、「がんの治療によって妊よう性にどのような影響があるのか」や「がんの治療後の見通し」を知って、パートナーや家族の方と十分に話し合うことが大切です。
妊孕性について詳しく知りたい場合は、主治医に相談して女性の場合は当院の産婦人科を、男性の場合は当院の泌尿器科を紹介してもらい、受診して相談してください。

(Ⅰ)女性の場合「がん等の治療にあたり将来の出産をご希望の患者さまへ」

1.はじめに

若年がん患者の罹患率は近年増加傾向を示していますが、手術療法、化学療法そして放射線療法などを中心とした集学的治療や診断方法の進歩に伴い、その治療成績は向上してきており、がん患者の生存率が改善してきています。しかし、一部の若年女性がん患者は治療によって原疾患は寛解しますが、後に閉経の早期発来や妊孕性消失など、女性としてのQOLの低下といった問題を抱えると言われています。
妊孕性温存とは、若年がん患者や免疫疾患患者に対する治療により、将来妊娠の可能性が消失しない様に生殖能力を温存するという考え方です。がん・生殖医療(Oncofertility treatment)における若年女性がん患者の妊孕性温存治療とは、①受精卵凍結、②卵子凍結、③卵巣組織凍結の3つの選択肢が上げられます。実際にどのがん・生殖医療を選択するかは、①がんの種類、②がんの進行の程度、③抗がん剤の種類、④化学療法の開始時期、⑤治療開始時の年齢、⑥配偶者の有無などによって決定することとなります。しかし、何よりも原疾患の治療が最優先事項であり、がん・生殖医療の提供はその治療が遅延無く実施出来る事が原則となり、本治療は原疾患の治療を担当する医師によって妊孕性温存が可能であると判断された場合においてのみ実施される医療となります。

2.妊孕性温存療法の種類

受精卵凍結

この技術は患者さんから採取した卵子とパートナーの精子を受精させ(受精した状態を受精卵と言います)、数日間培養して細胞分裂が進んだ胚という状態にした後に凍結する方法です。本方法は不妊治療として行われる体外受精の手法で広く実施されており、有効性・安全性がほぼ確立した技術であるため、パートナーがいらっしゃる方には第一選択となる方法です。凍結した胚を子宮の中に戻すことを胚移植と言います。凍結胚1個あたりの妊娠率は患者さんの年齢により大きく異なりますが、約2-3割と言われています。

卵子凍結(未授精卵子凍結)

患者さんから採取した卵子を凍結する方法です。この方法によって卵子を凍結した場合、卵子1個あたりの妊娠率は4.5-12%程度とされています。また、凍結しておいた卵子を融解して生殖補助医療を行い、生まれた児に染色体異常や先天異常・発育障害が増大することはないという報告もあり、現在は有効かつ安全な臨床技術であるとされています。治療を受けられる時点でパートナーがいらっしゃらない方が対象になります。

妊孕性温存療法の種類

卵巣組織凍結

腹腔鏡手術によって片方の卵巣を摘出し、その組織を凍結、妊娠希望となった時に融解して体内へ戻す(移植する)技術です1997年に海外で初めて卵巣組織凍結が行われ2004年に最初の出産例が報告されており、その有効性に注目が集まっていますが、移植した症例数は多くありません。生まれた児の染色体異常や先天異常は増えないようですが、長期の成長報告はまだありません。一度にたくさんの卵子を保存できる、治療期間が短くて済む、思春期前の女児においても施行できる等メリットがありますが、手術によるトラブルの可能性があります。また悪性腫瘍の治療のために本治療を受けられた場合、卵巣組織を体内に移植する時に卵巣内のがん細胞が再移植されてしまう可能性、さらには移植卵巣が生着する保障がない等のデメリットもあります。

卵巣組織凍結

その他

GnRHアゴニストと言う薬剤を定期的に投与することにより、卵巣を保護する効果が期待されていますが、現時点では副作用は少ないものの、確立した有効性は示されておりません。

卵巣組織凍結

(日本産科婦人科医会ホームページより改編)

妊よう性温存を希望する場合は、生殖医療を専門とする機関(横浜市立大学附属市民総合医療センター生殖医療センター妊孕性温存外来)へ紹介致します。

*妊孕性温存外来について

妊孕性温存外来は自由診療となります。女性の方は初回のみ「初診料+カウンセリング料が5,000円(税別)」がかかります。また、治療対象は原則として、卵子凍結、胚凍結(既婚者に限る)は45歳以下、卵巣組織凍結は41歳以下、50歳までには原疾患の治療が終了して妊娠を目指せる方としています。

・初診受付日:月~金 医療機関からの予約または当日来院予約
・地域連携相談室にご連絡いただければ、初診の方も予約診療で受診していただけます。
・ご夫婦で受診いただく場合、女性の紹介状のみで結構です。
※費用は概算となりますが、概ね1回の治療につき35〜50円万前後かかります。
・排卵誘発:約10万円、採卵(卵子が取れた場合):約14万円
・卵子または胚凍結:3万円〜10万円
・融解胚移植:約10~12万円
・卵巣組織摘出・凍結:約75~80万円
・卵巣融解・移植:約60万円

(Ⅱ)男性の場合(横浜市大市民総合医療センター生殖医療センターホームページ参照)

1.不妊症の原因

①抗癌剤や放射線照射による精巣障害で精子が作れなくなる場合
②手術などにより射精機能の喪失、精子の通り道がなくなってしまう場合

2.妊よう性の温存方法

精子の凍結保存のみです。治療前に精子を凍結保存しておき、癌治療が終了し挙児を希望された時点で保存していた精子を使用します。

3.精子採取保存方法

①射精された精液を採取し、液体窒素を用いて保管する方法

②精液の中に精子がいない場合や射精できない場合は、手術によって精巣組織を採取し液体窒素を用いて保管する方法(精巣内精子回収術)

4.使用方法

保存された精子は、将来癌治療が終了し、お子様を作りたいと希望された時点で使用します。精液を凍結した場合多くは顕微授精、精巣組織を凍結した場合も顕微授精が必要になります。本治療法が、癌治療を受ける予定の男子患者に対する唯一の妊孕性の維持療法です。癌治療を受ける患者さんの不安軽減が期待できます。

5. 凍結精子自体の問題点

凍結精子について

精子を凍結することで患者さんに合併症はありませんが、解凍後の精子の運動性、受精能についての問題点があります。 凍結後の精子の運動率、受精率は原精液の30-60%、70-75%に低下し、精子の生存率も低下します。凍結前の状況によっては解凍後の妊孕性の保証が出来ない場合もあります。多くの場合は顕微授精が必要です。

精巣内から直接精子を回収する場合(精巣内精子回収術)について

手術による精子回収率は5〜60%程度で、全ての方が精子を回収できるわけではありません。精巣・陰嚢に切開を入れるため、術後の出血・感染などが生じる可能性があります。 精巣は精子以外に男性ホルモン(テストステロン)を産生しています。手術でその産生機能も低下してしまう可能性があり、術後筋力・体力の低下、気力の低下などが見られる場合は男性ホルモンの補充を行う場合があります。

6.費用について

初回凍結時(1年間の凍結保存料を含む)

15,000円+精液検査料、初診料(精巣組織回収の場合には入院費と手術料)

精子がない、射精できない、などで精子の凍結が困難な場合には凍結料は請求いたしません。

精巣内の精子回収を行う場合には、入院前検査が約20,000円、手術が入院費・手術料込みで約25〜280,000円となります。 凍結期間は原則1年で精子保存を継続する場合は1年ごとに更新し維持料が発生します(10,000円)、この際に精液検査も希望される方はその他に2,040円(精液検査料)が必要です。

※診察の上、実際の治療、妊よう性温存を希望する場合は、生殖医療を専門とする機関(横浜市立大学附属市民総合医療センター生殖医療センター妊孕性温存外来)へ紹介します。

⑦ アピアランスケアについて

がん治療を行うと、抗がん剤をはじめとする薬物療法の副作用による脱毛、皮膚障害、爪の変化、手術による傷、放射線治療による皮膚炎など外見の変化が見られることがあります。それらの変化は、自分らしくないと思えたり、人間関係に自信を持てなくなるなど、普段通りの生活が送れないことで社会活動を困難にします。このようながん患者の方が抱える大きな不安に対して、外見だけの支援ではなく、治療と生活を考える、“患者さんと社会をつなぐ支援”が、私たち医療者の行うアピアランス(外見)ケアです。アピアランスケアを通じて、患者さんが今まで通りに、人との関わりの中で、自分らしく生活できるよう支援を行っています。

当院では抗がん剤治療をしている方を対象にアピアランスに関するアドバイスを行っています。治療の副作用による皮膚障害・爪障害などはQOL(生活の質)の低下を引き起こすことがありますが、早期から薬剤師や看護師が介入することにより治療を継続していくことができるようにサポートしていきます。また、脱毛については、ウィッグ・帽子・スカーフなどによる工夫、眉毛・睫毛の脱毛については、日常のメイクでのカバー方法など紹介し、安心して治療ができるように支援させていただきます。不定期ではありますが希望者を対象に「アピアランスケア教室」を開催しています。アピアランスケア教室では、アピアランスケアに関する講義やウィッグの試着、がんを専門とする看護師(がん化学療法看護認定看護師、緩和ケア認定看護師、がん放射線療法看護認定看護師)との相談コーナーもあり、和気あいあいとした雰囲気で楽しく行っています。

アピアランスケア教室

アピアランスケア教室

⑧ 口腔ケアについて

がん治療における口腔機能管理について

がんの治療を受けられる方には、様々な口腔内トラブルが発生する事があります。そこで、当院口腔外科(以下当科)では、出来る限り口腔内トラブルが発生しないよう、治療開始前から歯科医師、歯科衛生士が介入しています。近年、口腔ケアはがん治療における重要な支持療法の一つとして認識されるようになっています。

1.手術療法の場合

特に口腔や咽頭、食道や肺など、口腔と近い部位の手術では口腔内細菌による創部感染のリスクがあります。また、汚染された口腔内で挿管された場合、術後に、誤嚥性肺炎発症の可能性があります。その他にも、動揺歯や脱落してしまいそうな差し歯などがあると、挿管時に脱落し誤嚥してしまうといった事故にも繋がりかねません。当科では手術の前に口腔内を確認させて頂き、動揺歯の抜歯や固定、口腔内清掃等をかかりつけ歯科医院と連携して実施しています。

2.化学療法、放射線治療の場合

化学療法による口腔内有害事象には、口腔粘膜炎、口腔カンジダ、歯性感染症など、多岐に渡ります。重度歯周病等の歯性感染症は、骨髄抑制期に重篤な歯性顎炎に移行する可能性があり、時には生命が脅かされる場合もあります。化学療法開始前に口腔内を清掃し、感染源に成り得る歯を抜歯する事で、口腔内からの感染リスクを大幅に減少させる事が出来ます。また、放射線治療の場合も、特に頭頸部への放射線治療での口腔粘膜炎発症率は非常に高く、経口摂取が困難となってしまう場合もあります。当科では化学療法や放射線治療開始前に口腔内感染源検索を実施し、口腔内清掃や必要時抜歯等の処置を行っています。また口腔粘膜炎等、口腔内有害事象発症時には早期から適切な対応を実施しています。

3.緩和ケアの場合

特に終末期の患者さんは口腔内の乾燥や口腔カンジダ、口腔内出血等様々なトラブルを抱えています。出来る限り苦痛を緩和出来るよう、歯科衛生士による口腔ケア介入や保湿剤等対症方法を提案させて頂いています。
このように当院ではすべてのがん患者様に適切な支持療法が提供できるように、体制を整えています。お困りの事がありましたらご相談下さい。

⑨ がん地域連携クリニカルパスについて

『クリニカルパス』とは、治療の予定表のようなものです。治療の方法や、実際の予定をあらかじめ示すことで、先行きが見通せ、治療に対する安心感が得られたり、治療が順調に進んでいるかどうか判断したりするのに役立ちます。現在では、多くの入院治療でクリニカルパスが適応されています。
がん治療は、手術や抗がん剤、放射線治療など、治療の主体は病院にならざるを得ません。そして、そうした事情から、10年ほど前までは、一度がんになると、かかりつけ医のもとを離れて、病院が治療後も外来診療を継続することがほとんどでした。しかし、医療の進歩により、がんが治るようになってくると、ある程度経過観察を終えて、かかりつけ医に戻った時に、かかりつけ医による治療に切れ目が生じることとなりました。この問題を解決するために、『クリニカルパス』の仕組みを取り入れて、かかりつけ医にも治療後早期から情報を共有していただく仕組みが考えられました。これが『がん地域連携クリニカルパス』です。


つまり、『がん地域連携クリニカルパス』は、がんに対する手術治療(内視鏡手術を含む)を受けた後の経過観察において、治療を担当した医師とかかりつけ医が、協力して患者さんをサポートする仕組みのことを言います。治療を担当した医師は、これまで通り、術後の定期的な精密検査を行い、再発の有無をチェックします。一方、かかりつけ医は、高血圧や糖尿病など、もともと持っている病気(基礎疾患)に対する治療を継続しながら、あるいは、風邪をひいた時などにまず対応するホームドクターとしての関わりを持ちながら、がん治療についての情報を共有します。こうすることで、かかりつけ医は、治療を継続することができると同時に、患者さんの癌についての病状も把握することができるようになりました。患者さんには、県が作成した共通の手帳を持っていただき、ご自身の診療記録として情報を共有していただくことができます。旅先で急に体調を崩して医療機関にかかることになった時にも、この手帳があれば、自分の病気について、簡単に、確実に伝えることができます。手帳の中には、手術時のがんの状態や手術に関する情報、基礎疾患やアレルギーに関する情報、治療計画予定表、受診ごとの記録欄のほかに、術後生活の注意点や後遺症に対する対処法などが書かれています。


当院では、2015年より本格的に導入を進めており、2021年12月までに、胃癌(内視鏡手術後)132例、胃癌術後48例、大腸癌術後76例、肺癌術後75例の登録がありました。また、ご協力をいただいているかかりつけ医療機関は132施設になります。
今では、2人に1人が、少なくとも一度は『がん』になると言われています。これまで以上に、がん診療における、地域のクリニックと病院の連携が重要になってくると思われます。そのために『がん地域連携クリニカルパス』という仕組みを普及していくことが必要だと考えています。

⑩ がんカンファランス

がん診療では、各診療科が責任を持って診断・治療を行っていますが、がんの治療では、手術療法、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療など複数の治療法を併用する集学的治療が必要なことも多く、担当科だけの知識や経験だけでは最良の医療を提供できない場合があります。また、痛みのコントロール、食事療法、心理的ケア、退院後の療養生活、経済的問題など患者さんのQOL(生活の質)を考慮した治療方針決定のためには、医師だけではなく、多職種のスタッフが介入しより良い方法を検討することが大切です。

キャンサーボード(CancerBoard)とは、診療科の垣根を取り払い、担当科以外に各種外科・内科、放射線科、麻酔科(ペインクリニック)、精神科、緩和支持療法科、病理診断科など関係各科の専門医が集まり、さらに多面的な病状把握によるチーム医療を行うために看護師、薬剤師、療法士(PT、OT、ST)、栄養士、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー(MSW)などの医療スタッフが参加して、患者さんのがんの治療法を包括的に検討する組織です。エビデンスに基づいた有効性の高い治療法を選択し、がんの種類や病期、合併症、患者さんの意思を尊重した、最適で包括的な治療方針を実践します。


当院では、臓器別に対応させたカンファランスを整備し、概ね1週間から2週間に1回のペースで開催し、診療科の枠を超えて検査や治療をスムーズに進めることが可能となっています。

⑪ 緩和ケアについて

1. 質問票をもちいた「苦痛のスクリーニング」

がん患者さんやそのご家族は、がん治療中であってもさまざまな身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛などを少なからず抱えています。

しかし必ずしもその苦痛(つらさ)は医療者に伝わっているとはいえません。たとえば「先生にこんなことを言ってはいけないんだ」などさまざまな理由からつらさや気がかりなことを直接伝えるのをためらっている方もおられます。


そこで厚生労働省は、医療者が患者さんの抱えるつらさをスクリーニングし必要に応じて適切な緩和ケアを適切な時期に提供することを全国のがん診療連携拠点病院に求めました。神奈川県がん診療連携指定病院である当院もそれに従い、つらさを直接医療者に伝えられない方でも伝えるハードルが下がるように“質問票”をもちいたスクリーニングを行っています。

対象の方

・外来通院で抗癌剤治療・放射線治療を受けるとき
・がん治療のため入院するとき
・その他医療者が必要と判断したとき

方法

「生活のしやすさに関する質問票」に記入していただきます。
それぞれの項目で一定以上のつらさを感じている方や専門職に相談したいと記載した方などケアの必要な方を選びだします。
記入やご相談につきましては、《がん相談支援センター》直通045-782-2140迄、お電話にてお問い合わせ下さい。

ケアの必要な方へ
  • ・外来通院中は主治医・看護師がその内容をもとに症状や問題に対応します。必要に応じ、緩和ケアチームの看護師、緩和ケア外来、がん相談支援センターや外来看護師などと連携して継続的なケアを行います。
  • ・入院患者さんの場合は、緩和ケアチームの看護師が内容を把握したうえで必要があれば患者さんと面談し専門的緩和ケアや他の専門職の関与の必要性を判断します。その上で緩和ケアチームが入院中のさまざまなつらさの軽減のためにご相談に応じます。

このようにして、がん治療中の方でも抱える苦痛を医療者に伝えやすくなることで医療者とのコミュニケーションが進み、適切な治療やケアを適切な時期に受けることにつながったり、さまざまな専門職に相談する機会ができることになり、患者さんの生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)の維持、向上につながるものと思います。

⑩苦痛のスクリーニング

生活のしやすさに関する質問票 第3版
がん対策のための戦略研究『緩和ケア普及のための地域プロジェクト報告書』
OPTIM Report 2011 より

2. 2021緩和ケア研修会について

2006年公布された「がん対策基本法」に基づき、2007年策定されたがん対策推進基本計画で、「すべてのがん診療に携わる医師が研修等により、緩和ケアについての基本的な知識を習得する」ことが目標として掲げられました。
翌年、医師に対する緩和ケアの基本的な知識等を習得するための研修会の開催指針が出され、以降地域の基幹病院で「緩和ケア研修会」が開催されています。
この研修会の目的は“基本的な緩和ケアの修得”で、「痛みをはじめとした、がんによる苦痛に対する緩和ケアの知識、技能、態度を修得し、実践できる」こととされています。 当初は「がん診療に携わる医師」に限定されていましたが、現在では「がん患者を診察する医師や看護師など医師以外の医療従事者」もその対象となっております。

当院も平成23年(2011年)より年1回開催しており、2021年度で10回を重ねました(2020年度は新型コロナのため開催中止)。当院の研修会の特徴は、第1回から「がん診療に携わる医師」に限定せず、医療者一般を受講可能としており、看護師(訪問看護師を含む)、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、ソーシャルワーカー、歯科医師などいろいろな職種の方々が受講していること、また医師に対しては医師会の後援をいただき、生涯教育講座の単位を取得できることが特徴です。
内容は、「基本的緩和ケアの修得」で必要な症状緩和、チーム医療と地域連携、コミュニケーションの3つを学びます。具体的には緩和ケア概論、疼痛の評価と具体的治療、消化器症状や呼吸器症状の緩和などをe-learningで受講し、仮想症例をもちいて全人的苦痛の評価と治療、その後の療養場所の選定と地域連携をグループワークで、「悪い知らせの伝え方」をロールプレイで実体験する、という構成になっています。
まだ受講されていない医療従事者の方で、関心のある方は神奈川県のホームページをご覧ください。

緩和ケア研修会について
緩和ケア研修会について