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脳腫瘍(のうしゅよう)

目次

脳腫瘍とは

(のう)にも腫瘍(しゅよう)ができることがあり、良性と悪性のものがあります。悪性腫瘍(あくせいしゅよう)は「がん」と言われることが多いかと思いますが、「脳がん」とは言いません。良性か悪性かが治療を行わなくてはならないかどうかの選択のひとつになるのが一般的ですが、脳の場合は良性であっても周囲に悪影響(あくえいきょう)を及ぼしかねないため治療(ちりょう)対象(たいしょう)となることがあります。
脳腫瘍は覚えきれないほどいろいろな種類(しゅるい)があります。このなかには、脳内(のうない)のある特定の場所にできるものと、脳内のいろいろなところにできるものがあります。
また、小児(しょうに)にできる腫瘍に脳腫瘍(のうしゅよう)が占める割合は高いです。

脳腫瘍の症状

脳腫瘍が大きくなると、「頭蓋内圧(ずがいないあつ)亢進(こうしん)症状」をきたします。これは、頭蓋骨(ずがいこつ)(かこ)まれた脳内(のうない)腫瘍(しゅよう)がおおきくなると圧が上昇してくるのですが、それによって起こる症状です。頭痛(ずつう)が日に日に強くなってきて、悪心(おしん)嘔吐(おうと)をきたすようになったら要注意(ようちゅうい)です。さらに放置すれば、意識がもうろうとしてきます。
頭蓋内圧亢進症状を来す前に、腫瘍ができた部位に一致してなにかしらの神経症(しんけいしょう)(じょう)(てい)してくる場合があります。身体(からだ)(顔・手・足)の半分が動かしにくい、言葉がでない、あるいは、言葉の理解ができない、ふらふらしてまっすぐに歩けない、ものが()えにくい、あるいは、視野(しや)の一部が欠ける、といった症状が、腫瘍の増大に伴い徐々に進行してきます。こういった症状はわりと気づきやすいのですが、ヒトの脳の機能(きのう)複雑(ふくざつ)です。高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)、すなわち、情報を統合し、より高度(こうど)命令(めいれい)を下す機能が障害されることによって起こる症状には気づきにくく、認知症(にんちしょう)と間違われることがあります。また、てんかん発作や特別な症状をきっかけに発見されることもあります。

脳腫瘍の診断

CTやMRI検査が普及しているわが国において、脳腫瘍の発見はさほど難しいことではありません。腫瘍(しゅよう)存在(そんざい)明瞭(めいりょう)()するために造影剤(ぞうえいざい)という薬を使用して検査が行われることが多いです。
いろいろな脳腫瘍があるなかで、特徴(とくちょう)(てき)画像(がぞう)所見(しょけん)を 呈しており、どんな腫瘍かの推定(すいてい)が可能なものもありますが、的確(てきかく)治療(ちりょう)に結び付けるためには、実際の細胞をみる病理組織診断(びょうりそしきしんだん)不可欠(ふかけつ)です。ある(しゅ)の腫瘍は、遺伝子(いでんし)(がく)(てき)手法(しゅほう)をもって診断されます。
他の臓器と異なり、(のう)場合(ばあい)は、「生検(せいけん)」といって少し組織をとってきてあらかじめどんな腫瘍(しゅよう)かを想定(そうてい)して治療方針を決定することは少ないです。脳の場合は「生検」も危険性(きけんせい)のある手術になってしまいます。

脳腫瘍の進行度

脳腫瘍の場合は、ほかの組織のがんと異なり、進行度を表すステージというものはありません。
悪性(あくせい)脳腫瘍(のうしゅよう)であっても、他の臓器(ぞうき)転移(てんい)するものはきわめてまれです。

脳腫瘍の治療

ひとえに脳の腫瘍と言っても、その種類は非常に多くの種類があり、当然(とうぜん)、治療方法もさまざまですが、おおむね3つの方法があります。それは、摘出手術(てきしゅつしゅじゅつ)放射線治療(ほうしゃせんちりょう)化学療法(かがくりょうほう)です。(しゅう)(がく)(てき)治療(ちりょう)といって、これらの治療方法を組み合わせて行うのがふつうですが、なかには、放射線治療や化学療法が著効(ちょこう)するものもあります。
脳腫瘍があると、周囲の(のう)組織(そしき)が腫れてくることにより、腫瘍の大きさ以上に症状が強くでることがあります。周囲の腫れの軽減にはステロイドという薬を使用します。

摘出手術

脳腫瘍の場合、腫瘍の周囲に正常な脳組織がありますから、これをいかに傷つけないようにして摘出できるかがポイントになります。
脳の場合は、腫瘍ができる場所によって摘出が困難な場合があります。

放射線治療

悪性腫瘍のみならず、良性腫瘍でも放射線照射が有効なものがあります。
腫瘍(しゅよう)存在(そんざい)する箇所(かしょ)全体(ぜんたい)照射(しょうしゃ)する場合と、あたかも狙撃(そげき)のようにピンポイントで照射する定位(ていい)照射(しょうしゃ)という方法があります。

化学療法

いわゆる抗がん剤と、最近は分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)といって、がん細胞が持っている特定の分子(遺伝子(いでんし)やタンパク質)を標的(ひょうてき)とし、そこだけに作用する薬があり、ある(しゅ)脳腫瘍(のうしゅよう)投与(とうよ)されることがあります。

頻度が多い脳腫瘍

良性腫瘍

髄膜腫(ずいまくしゅ)

脳の表面を(おお)髄膜(ずいまく)から発生する腫瘍で脳の至る所にできます。もっともポピュラーな脳腫瘍です。ほとんどは成長(せいちょう)速度(そくど)(おそ)いので、小さいものは治療(ちりょう)対象(たいしょう)とならないことが多いです。摘出(てきしゅつ)可能(かのう)なものは摘出手術が(だい)(いち)選択(せんたく)となります。

下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)

最近は、下垂体(かすいたい)神経内分泌腫瘍(しんけいないぶんぴつしゅよう)という呼び名に変わりつつあります。脳下垂体(のうかすいたい)というホルモンを分泌する場所にしかできません。ホルモンを分泌しないタイプと、何かしらのホルモンを分泌するタイプがあります。後者の場合は、プロラクチンというホルモンを分泌するものが多く、乳汁(にゅうじゅう)分泌(ぶんぴつ)無月経(むげっけい)不妊(ふにん)などの症状を契機(けいき)に発見されることがあります。大きくなると、正常のホルモン分泌を障害(しょうがい)したり、見たものを脳に伝達する視神経(ししんけい)圧迫(あっぱく)することで視力低下(しりょくていか)(りょう)(がん)()(そく)視野(しや)が狭くなる症状で気づかれることがあります。ホルモンの分泌がある腫瘍は、それを抑える内服薬の投与で症状の改善や腫瘍(しゅよう)が縮小する場合がありますが、摘出手術(てきしゅつしゅじゅつ)を行うことがあります。その際は、(かい)(とう)手術(しゅじゅつ)ではなく、(はな)経由(けいゆ)して(おこな)(けい)蝶形骨(ちょうけいこつ)(どう)手術(しゅじゅつ)を行うことが多いです。

神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)

脳から出て頭部の各所に向かう神経(しんけい)表面(ひょうめん)にある細胞(さいぼう)にできる腫瘍(しゅよう)です。最も多いのは聴力やバランスにかかわる「聴神経(ちょうしんけい)」にできるもので、症状としては難聴(なんちょう)耳鳴(みみなり)が出現します。小さなものは治療対象とならないことも多いのですが、放射線治療(定位(ていい)照射(しょうしゃ))を行うことがあります。一般に腫瘍の成長が遅いので大きくなってから存在に気付くことがありますが、その際は摘出手術が考慮されます。摘出手術(てきしゅつしゅじゅつ)にしても放射線治療にしても、聴力および伴走する顔面神経(がんめんしんけい)(顔の筋肉を動かす)を温存できるかが治療のポイントとなります。

良性グリオーマ

脳組織に発生する腫瘍です。これに属する腫瘍は非常に多くのものがあります。確定診断には遺伝子診断(いでんししんだん)(てき)手法(しゅほう)が必要となります。摘出手術においては、良性といえども、神経線維(しんけいせんい) にそって発育してゆくためすべてを摘出することが難しい症例があります。

悪性腫瘍

悪性グリオーマ

(しゅう)(がく)(てき)治療(ちりょう)が必要となります。また、治療が一段落した後も、化学療法を継続したり、交流(こうりゅう)電場(でんば)腫瘍(しゅよう)療法(りょうほう)という特殊(とくしゅ)な治療を行う場合があります。いまなお治療(ちりょう)困難(こんなん)な腫瘍ですが、この分野の治療は、とくに診断や化学療法(かがくりょうほう)の分野で目覚ましく進歩してきています。

転移性脳腫瘍(てんいせいのうしゅよう)

ほかの臓器から脳に転移してきた腫瘍です。もともとの腫瘍(しゅよう)頻度(ひんど)と脳への転移(てんい)のしやすさから、肺がんや乳がんからの転移が多いです。
小さいものは、放射線(ほうしゃせん)照射(しょうしゃ)定位(ていい)照射(しょうしゃ))で制御(せいぎょ)できることが多いです。多発している場合は、(のう)全体(ぜんたい)放射線(ほうしゃせん)照射(しょうしゃ)します。大きなもので(のう)表面(ひょうめん)にあるものは摘出手術(てきしゅつしゅじゅつ)を考慮します。治療に際しては、患っておられるがんや体調を考慮して決めることが大事です。

悪性リンパ腫(あくせいりんぱしゅ)

脳にリンパ組織(そしき)はないのに発生(はっせい)する、脳にとっては不思議(ふしぎ)腫瘍(しゅよう)です。高齢者(こうれいしゃ)に多く、近年増加傾向(ぞうかけいこう)にあります。化学(かがく)療法と放射線治療が奏功するため、摘出手術は、組織を確認するためにだけ行われると言っても過言(かごん)ではありません。一度は治療が効くことが多いのですが、高齢者は治療の制限が出やすく、腫瘍の性質上再発しやすいので、あまり予後はよくはありません。ただ、この分野でも最近新薬が登場しました。

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