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肺(はい)がん

目次

肺がん

肺がんは、(はい)実質(じっしつ)肺胞(はいほう))や気管支(きかんし)の細胞が何らかの原因でがん化することで発生します。主な原因としては、喫煙(たばこ)、大気汚染やアスベスト(石綿)などの有害物質、遺伝や体質などが挙げられます。血液やリンパの流れにのって、リンパ節やほかの肺、胸膜(きょうまく)、骨、脳、肝臓、副腎(ふくじん)などに転移を起こすことがあります。日本では、すべてのがんの中で二番目にかかる人が多く、死亡数も上位を占めていますが、早期発見と適切な治療で、治療効果が期待できます。

肺がんには、様々な組織型があり、その特徴や治療方針の違いから、大きく小細胞肺がんとそれ以外の肺がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど)に分けられます。

肺がんの症状

気管や太い気管支など肺の入り口近くにできたがんは症状を出しやすく、初期には、(せき)(たん)血痰(けったん)などが見られます。進行すれば、気道が閉塞し、呼吸(こきゅう)困難(こんなん)をきたします。

しかし、いずれの初期症状も『肺がん』に特徴的ではなく、肺炎や気管支炎など呼吸器疾患で共通にみられる症状で、注意が必要です。原因がはっきりしない咳や痰が2週間以上続く場合や、血痰が出る場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

一方、肺実質(肺胞)にできたがんは症状を出しにくく、胸部X線写真やCT検査などで偶然に発見されることが多いです。転移による症状(痛みや脳神経症状など)によってはじめて見つかることもあります。早期発見には喀痰(かくたん)細胞(さいぼう)(しん)や胸部X線写真を用いた肺がん検診、CT検診(人間ドック)などが有効です。症状がなくても、定期的な検診を心がけましょう。

肺がんの診断

肺がんの確定診断のためには、組織を得ること(生検(せいけん)と言います)が必要で、気管支内視鏡検査が行われますが、気管支内視鏡は太い気管支のところまでしか到達できず、肺実質(肺胞)にできたがんの場合、病変そのものを観察することができないため、確定診断が得られないことがあります。この場合は、CTで病変の位置を確認しながら体表から針を刺して組織を採取する方法や、胸腔(きょうくう)(きょう)(ない)()(きょう))を用いて、組織を採取する方法があります。

肺がんの拡がりを知るために、全身のCT検査、脳MRI検査、腹部超音波検査、(こつ)シンチグラフィー検査、PET-CT検査などを行います。

肺がんの進行度(ステージ)

肺がんの進行度は、肺がんの大きさ、リンパ(せつ)転移(てんい)の進展の具合、他の臓器への転移の有無を加味して、大きくステージⅠ、Ⅱ、Ⅲ、IV期に分類されます。

Ⅰ期:肺がんの大きさが4cm以下でかつリンパ節転移がないもの。

Ⅳ期:肺がんの大きさにかかわらず、他の臓器に転移があるもの。

Ⅱ~Ⅲ期は、肺がんの大きさや周囲への浸潤(しんじゅん)、リンパ節転移の進展具合で分類されます。

(日本肺癌学会HPから引用)
https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2019/2020/Q27.html

肺がんの治療

手術治療

手術治療はがんをからだから物理的に取り除くわけですから、治療法の中で最も局所の制御に長けています。しかし、全身に拡がったがんを完全にからだから取り除くことはできません。また、手術では同時に一定程度の呼吸(こきゅう)機能(きのう)を失うことから、手術に耐えられるだけの十分な呼吸機能が必要です。

手術は全身(ぜんしん)麻酔(ますい)で行います。標準的な切除範囲はがんを含む肺葉(はいよう)全部(ぜんぶ)肺門部(はいもんぶ)および縦隔(じゅうかく)のリンパ節ですが、病変の大きさや位置、患者の呼吸機能や年齢、体力などを考慮して、切除範囲を縮小することがあります。アプローチの方法には、胸腔鏡という内視鏡を使った方法と、大きな傷と肋骨の切断を伴う(かい)(きょう)という方法があります。胸腔鏡を用いた手術は傷が小さく、患者さんに与えるダメージは少なく済みますが、複雑な操作は困難です。患者さんごとの肺がんの状態に応じて、術式は選択されます。最近は、ロボット手術を行う施設も増えていますが、患者さんに与えるダメージは胸腔鏡手術とほぼ同等と考えられます。

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薬物療法

薬物は全身に投与されますので、からだ中にがんが拡がっていても治療効果が期待できます。がんのステージⅣ期で選択されることが多いですが、最近では、手術の前、手術の後、放射線治療の後に、病状や肺がんの性質に合わせて薬物治療を行うことがあります。肺がんに使用できる薬は種類が多く、肺がんの性質や病状に応じて、一種類あるいは数種類を組み合わせて使うことができます。ただし、それぞれの薬剤に特徴的な副作用もあり、注意が必要です。

化学療法

いわゆる『抗がん剤』を使った治療です。通常、複数の薬を併用します。

分子(ぶんし)標的(ひょうてき)(やく)

がんの持つ遺伝子変異の特性に応じた薬物を使用します。効果的な薬物の選定には、がん組織の遺伝子(いでんし)変異(へんい)検索(けんさく)が必要です。

免疫(めんえき)チェックポイント阻害剤(そがいざい)

私たちの体には免疫という機能が備わっています。免疫細胞は体内にある異物を非自己と認識して攻撃をしますが、過剰に働いて自己細胞を攻撃してしまうことがあるため、このような誤った攻撃にブレーキをかける仕組みを持っています。がんに対しても攻撃をしますが、がんはこのブレーキを利用して免疫細胞の攻撃を免れています。免疫チェックポイント阻害剤は、このがん細胞がかけているブレーキを解除することで、免疫細胞ががんを攻撃できるようにするものです。

放射線療法

放射線治療も局所(きょくしょ)制御(せいぎょ)する目的で選択される治療法です。手術的に切除が困難な部位にあるがんの治療に適しています。単独または、薬物治療と共に行うことがあります。また、(こつ)転移(てんい)による痛みのコントロールなどの、局所治療にも使用することができます。

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