精巣は男性の生殖器で、テストステロンなどの男性ホルモンを分泌すると、精子をつくる重要な臓器です。精巣がんは、精巣の発生する腫瘍です。胚細胞腫瘍の一つで、胎児の時の原始生殖細胞(精子や卵子のもとになる未成熟な細胞)に由来する腫瘍です。精巣や卵巣などの性腺から発生するものと、性腺以外の胸部(縦隔)、腹部(後腹膜、仙骨部)、脳(松果体や下垂体)発生する性腺外胚細胞腫瘍に分類されます。
精巣がんに罹患する割合は10万人に1人程度と比較的まれながんですが、20~30歳代の男性の固形がんの中では最も多いがんです。明らかな原因は不明ですが、停留精巣の男性が精巣がんになるリスクは正常男性より2~10倍高く、父親や兄弟に精巣がん患者がいる場合は4~8倍高くなるといわれています。
初期症状はほとんどなく、精巣に無痛性のしこりや精巣が腫れに気付き、受診されて発見されることがほとんどです。自覚症状が乏しいことが多いですが、精巣のねじれ、出血、感染により、下腹部の鈍痛(30~40%)、急性の精巣痛(10%)が生じることもあります。精巣がんは進行が早いため、一部の患者ではリンパ節転移や肺転移の症状が出て、腹痛、呼吸困難、頚部リンパ節腫大などの訴えで発見される場合もあります。
問診、触診、陰嚢エコーなどの検査で精巣がんの診断は、比較的容易です。
精巣がんが疑わる場合は、精巣摘除前に血液検査で腫瘍マーカー(LDH、HCG、AFP)を調べます。また、手術前に、全身CT検査で肺やリンパ節転移がないか調べておくことが一般的です。
精巣がんが疑われる場合は、高位精巣摘除術により腫瘍を摘出して、病理組織診断により確定診断します。精巣がんは病理組織学的に、セミノーマと非セミノーマに分類されます。病理組織(セミノーマまたは非セミノーマ)と病期(表1)によって治療方針が決定します。
病期 | リンパ節転移 | 臓器転移 | 腫瘍マーカー |
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Ⅰ | なし | なし | 正常 |
Ⅱ | 領域リンパ節転移 | なし | 正常から軽度高値 |
Ⅰ | 領域外リンパ節転移または臓器転移または異常高値 |
1. 経過観察、2. 化学療法、3. 放射線治療の3つの選択肢があります。
欧米では、放射線治療が一般的ですが、わが国では放射線の副作用や治療効果が優れる点から化学療法が好まれて行われています。
化学療法:BEP療法(ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンの3剤併用)の3コースが原則です。ただし、ブレオマイシンは、間質性肺炎や肺線維症などの呼吸器の副作用があるため高齢者や肺気腫など呼吸器疾患のある方では、ブレオマイシンを抜いたEP療法を4コース施行します。
病理組織検査で再発危険因子である脈管侵襲(精巣がん細胞が血管またはリンパ管に入り込むこと)の有無によって治療方針が決定します。
BEP療法またはEP療法を3から4コース行い、腫瘍マーカーの値が正常化した場合は、リンパ節郭清や残存腫瘍を切除して病理組織検査で、治療効果の判定や再発予防することが推奨されています。また、腎機能や呼吸機能が不良な場合などは、VIP療法を4コース行うこともあります。
最初の化学療法で腫瘍が縮小しない場合や腫瘍マーカーが正常化しない場合は、難治性精巣がんと診断され、救済化学療法としてTIP療法(パクリタキセル、イホスファミド、シスプラチン併用療法)などが行われます。また、残存腫瘍が残った場合に外科的切除を追加する場合もあります。救済化学療法を必要とする進行がんの場合は、治療経験豊富な神奈川県立がんセンターに紹介させていただきます。
妊孕性とは『妊娠させる力』のことです。男性で妊孕性の問題になる点は性機能障害と精子形成障害の2つです。精巣は抗がん剤や放射線に対する感受性が高い組織ですので、がんの治療によって精子形成が低下して妊孕性が低下する可能性があります。
精巣がんの治療後、挙児希望の男性がん患者さんは、射精が可能であればできるだけ『治療開始前に精子の凍結保存』をすることお勧めします。ご希望の方は、横浜市大市民医療センターの生殖センターに紹介します。