悪性リンパ腫は"血液のがん"の一種です。白血球の一種である、"リンパ球"から発生します。白血病の項でも記載しましたが、白血球は骨髄中において幼若な細胞からさまざまな分化段階を得て成熟白血球に至ります。白血球には大きく骨髄球系とリンパ球系に分けられますが、このうち成熟したリンパ球系細胞から発生する"がん"が悪性リンパ腫です。悪性リンパ腫は現在非常に細かく分類がなされており、その数は100種類近くにもなりますが、大きくわけると、B細胞性、T細胞性、NK細胞性、ホジキンリンパ腫の4種類になります。ホジキンリンパ腫に対して、B,T,NK細胞性リンパ腫を合わせて、非ホジキンリンパ腫と呼びます。悪性リンパ腫は高齢者に多く、70歳代が発症のピークです。男女比はおよそ3:2で男性に多い傾向があります。
リンパ腫の症状としてみられる最も代表的なものは、リンパ節の腫脹です。首や腋の下(腋窩)、足の付け根(鼠径部)などに、お菓子の"グミ"のような硬さのグリグリとした腫瘤を蝕知することで気づかれる場合が多いです。腫瘤は多くの場合無痛性ですが痛みを伴うこともあります。リンパ節は体表ばかりではなく胸やお腹の中の深部にも存在するので、CTなどの画像検査を施行して初めてリンパ節腫大に気づかれることもあります。そのほか、原因不明の発熱が持続したり、寝汗や体重減少を呈したりすることもあります。肝機能の異常や貧血、血小板減少、白血球減少などの採血データの異常で発見されるケースもあります。
悪性リンパ腫を診断するためには組織生検が必須です。腫れているリンパ節等の組織を採取し、様々な染色法を用いて染めた標本を顕微鏡で確認して診断します。顕微鏡を用いての診断以外に、採取した組織中の細胞の性質を調べるため、フローサイトメトリーという検査が用いられます。そのほか、染色体分析や遺伝子検査などを施行し、それらすべての情報を加味して最終的な悪性リンパ腫の組織型が確定されます。
悪性リンパ腫の組織型の決定と同時に重要なのは病期分類です。
悪性リンパ腫が発生するリンパ組織は全身に存在しています。したがって、悪性リンパ腫は全身のあらゆる臓器に同時多発的に発生してくることがあり、治療開始前に病変の広がりを十分に把握しておく必要があります。
病変が全身のどこに存在しているのかを調べるために、消化管内視鏡検査、骨髄検査、PET-CT検査などが行われます。これらの結果を総合して病期(Ⅰ期~Ⅳ期)が決定されます。
リンパ腫の組織分類と病期によって、治療法は少しずつ異なりますが、基本的には抗がん剤と、抗体治療薬や分子標的薬と呼ばれる薬剤を併用して行われます。治療は3~4週の間隔をあけて6~8コース行われることが一般的です。治療継続中は吐き気や脱毛などのほか、血球減少、手足のしびれ、便秘などの副作用に注意が必要です。治療によって正常なリンパ球の働きが抑制されるため、様々な感染症の発症に留意する必要があり、感染症を予防するため、あらかじめお薬をしていただく服用して頂くこともあります。
予定された治療スケジュールが終了した後には治療効果判定のためのCTなどの画像評価を行います。悪性リンパ腫が消失したと考えられた場合には、その後、数年間にわたって、リンパ腫が再燃しないかどうか慎重に経過観察を行うこととなります。時には、再発を予防するために抗体治療薬を用いた治療を継続する場合があります(これを維持療法と呼びます)。
経過中に、もしリンパ腫が再発してしまった場合には、再度、抗がん剤で治療を行い、再度病気を抑え込むことができれば、その後に大量化学療法/自家造血幹細胞移植という治療を行うことがあります。また、最近では患者さんの体からリンパ球を取り出して、リンパ腫細胞を攻撃できるようにリンパ球の構造を改変し、そのリンパ球を患者さんの体内に戻すCAR-T療法という新しい治療法が選択できるようになりました。現在、当院ではCAR-T療法は施行できませんが、治療が必要な患者様には、CAR-T療法が可能なしかるべき施設にご紹介させていただいております。