口腔は唾液を分泌して食べ物を味わう、噛む、飲み込む、言葉を発するなど、人が生きる上で重要な機能を備えた臓器です。口腔は、上下口唇、舌、上下歯肉、頬粘膜、口腔底、口蓋で構成されており、歯牙を除くほとんどが扁平上皮という粘膜でおおわれています。そのため、組織型分類(がんの組織の状態による分類)はほとんどが扁平上皮がんに分類されます。
日本では口腔がんの発症は男性が女性の約2倍で、60~70歳代に多いという特徴があります。発生頻度はがん全体の1%程度とそれほど高くはありませんが、近年罹患率、死亡率ともに年々増加傾向にあります。
日本人に最も多い口腔がんは舌がんで、全体の55%を占めています。
口腔がんの原因については、まだ解明されていない点も多くありますが、喫煙、飲酒、口腔内の不衛生、炎症などが関係しているといわれています。
特に、喫煙、飲酒は口腔粘膜に直接接触する刺激になりますので、注意が必要です。
日本人を対象とした報告では、非喫煙者と比べて喫煙者(一日喫煙箱数×喫煙年数≧60)の口腔がん罹患リスクは5.2倍とされています。
また、非飲酒者と飲酒者(一日平均2合以上)の口腔がん罹患リスクも3.8倍とされています。
飲酒と喫煙の影響が足し合わさると罹患リスクがさらに上昇することも分かっています。
さらに、歯磨きをしない、治療をしていない歯があるなど、口腔内の不衛生はあると口腔がんを発症しやすくなるとされているので、定期的な口腔ケアを心がけてください。
口腔がんでは、がんができた部分の粘膜が赤くなったり、白く変色したり、形が変わったりします。硬結といって硬いしこりや腫れができることもありますが、初期は痛みや出血を伴わない場合もあり、口内炎と思い込んで放置してしまうケースも少なくありません。2週間以上治らない口内炎は注意が必要です。
口腔がんでは症状が進行すると粘膜のただれ、しこりの他、刺すような強い痛みが出現し、口が開けにくい、食事が飲み込みにくい、話しにくいといった症状が現れます。あごの下のリンパ節にしこりができた場合はリンパ節転移である可能性があるため注意が必要です。
口腔がんには口腔白板症といって前がん病変とよばれる病態があります。舌や歯肉、頬粘膜にみられる白斑状の病変で、表面はざらざらした感触、角化といって少し硬くなった粘膜です。口腔白板症は文献では3%~14.5%で将来がん化するといわれており、口腔粘膜にこのような白い粘膜変化を認めた場合は、検査が必要です。
口腔がんは主に見えるところ(口腔内)の発症するため、視診、触診が重要です。粘膜に変化が見られた場合、触ってみて硬くなっていた場合などは注意が必要です。
確定診断を付けるには、病理組織学的検査が必須になります。病変の一部を切除し、顕微鏡でがん細胞の有無や種類を詳しく調べます(細胞診、組織診)
さらに、がんの大きさや浸潤の程度、リンパ節や遠隔への転移の有無などを調べるために、X線、CT,MRI,超音波(エコー)検査、PET-CT検査などを行います。
重複癌を調べるために内視鏡検査を行うこともあります。
口腔がんの進行度をはかる指標を病期(ステージ)といいます。以下に示しますが、
がんの大きさや浸潤の程度から病期を決定し、治療方法を選択します。
早期に発見し、がんが小さいうちに治療につなげることができれば、より治療成績は高まりますので、早期発見、早期治療が最も重要になります。
N0 | N1 | N2 | N3 | M1 | |
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Tis | 0 | ||||
T1 | I | Ⅲ | Ⅳ A | Ⅳ B | Ⅳ C |
T2 | II | Ⅲ | Ⅳ A | Ⅳ B | Ⅳ C |
T3 | Ⅲ | Ⅲ | Ⅳ A | Ⅳ B | Ⅳ C |
T4a | Ⅳ A | Ⅳ A | Ⅳ A | Ⅳ B | Ⅳ C |
T4b | Ⅳ B | Ⅳ B | Ⅳ B | Ⅳ B | Ⅳ C |
口腔がんの治療法は、がんができた場所やがんの種類、進行(広がり)の度合いなどによって異なります。ほとんどの口腔がんは外科治療(手術)が標準治療となりますが、進行度によっては、放射線治療や化学療法(抗がん剤)を術後に併用したり、痛みなどの症状を和らげる目的で緩和治療も行う場合があります。
口腔がんの治療後は、食べ物を噛んだり(咀嚼)、飲み込んだり(嚥下)、言葉を発音する(構音)などの機能が障害されてしまうことがあります。これらの機能を回復させるために、様々なリハビリテーションが必要になる場合もあります。
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