前十字靭帯損傷の治療について

前十字靭帯(ACLAnterior Cruciate Ligament)とは

膝関節の重要な靭帯で、損傷する頻度が高く、他の靭帯と比較して損傷後の機能障害が大きくなります。脛骨(すねの骨)の前方から大腿骨(太ももの骨)の後方にかけて付着している靭帯で、膝関節の前方への動きと回旋(ひねり)に対して制動する力を発揮します。

目次

原因

ジャンプの着地や切り返し動作、外側からタックルを受けた時など、主に膝が内側に折れてしまう動作(Knee-in)で損傷します。*膝が外側に折れてしまう動作や膝を反るような動作で損傷することもあります。

症状

前十字靭帯を損傷すると、受傷直後は激しい痛みで膝が動かせなくなり、プレー続行が難しくなることが一般的です。ただし、痛みが比較的軽いケースもまれに見られます。
通常、靭帯からの出血により、時間とともに膝が腫れてくることが多いです。個人差はありますが、受傷後3~4週間ほど経過すると、日常生活では大きな問題がない程度まで症状が落ち着きます。そのため、前十字靭帯損傷に気づかず放置されるケースも少なくありません。
しかし、スポーツ復帰を目指す際には、「膝のぐらつき」や「ガクッと崩れる感覚」、痛みの再発などの症状が現れることがあります。また、損傷を放置すると、半月板や軟骨への負担が増し、将来的に半月板損傷や変形性膝関節症へ進行するリスクもあります。

軟骨損傷

半月板損傷

診断

まずは、徒手検査で膝関節の前方および回旋の不安定性を確認します。
損傷が疑われた場合はMRI検査をします。症状とこれらの検査から総合的に判断し、診断します。

正常の靭帯

損傷した靭帯

治療方針

原則として手術による治療を推奨しています。ただし、中高年でスポーツをされない方や、膝の不安定感が目立たない方には、保存療法を選択する場合もあります。
手術を行う時期については、一般的に受傷後3~6カ月以内の早期が望ましいとされています。しかし、膝の可動域の回復状況や、所属しているスポーツチーム(部活動)、学校・仕事のスケジュールなども考慮しながら、患者様と相談のうえで最適なタイミングを決定しています。

当科は専門家としての意見を丁寧にお伝えした上で、患者様ご本人とご家族と一緒にじっくり相談し、最終的な治療方針を決めていきます。一方的に治療を押し付けることはありませんので、ご不安な点があれば、どうぞお気軽にご相談ください。

手術

関節鏡を用いた「前十字靭帯再建術」を行っています。
手術時の麻酔は、基本的に「全身麻酔(眠る麻酔)」と「伝達麻酔(痛みを和らげる麻酔)」を併用し、できる限り患者様の負担が少なくなるように配慮しています。麻酔の詳細については、事前に麻酔科の医師からしっかりと説明させていただきますのでご安心ください。

前十字靭帯は一度損傷すると自然には治らないため、自分の体のほかの部位から腱を採取し、損傷した靭帯の代わりに移植します。
腱の採取には主に以下の3つの方法があります。

  • ハムストリング腱(太ももの後ろにある屈筋腱)
  • 膝蓋腱(膝のお皿の下にある腱)
  • ⼤腿四頭筋腱(膝のお⽫の上にある腱)

どの腱を使⽤するかは、スポーツの種類、性別、体格などを考慮し、患者様と相談のうえで決定しています。

手術では、脛骨と大腿骨に小さなトンネル(骨孔)を作り、そこに採取した腱を移植してしっかりと固定します。最近では、より正確な位置に骨孔を作成する技術が進歩したため、治療成績が向上しています。

正常の靭帯

損傷した靭帯

再建靭帯

入院

手術のための入院は、手術前日からとなります。
手術当日は、直後から患部の冷却(アイシング)を行い、痛みに対しては点滴や内服薬を用いて、できる限り痛みを軽減できるようにサポートいたします。
手術翌日からは、すぐにリハビリテーションを開始します。まずは膝の曲げ伸ばしを中心とした「可動域訓練」から始め、徐々に膝の動きを回復させていきます。
手術後1週からは、事前に作製したオーダーメイドの装具を装着し、松葉杖を使った歩行訓練をスタートします。歩行が安定すれば、退院が可能です。通常の入院期間は、約10日間を予定しています。
安心してリハビリと日常生活への復帰を目指せるよう、スタッフ一同でサポートいたします。

*装具はカラーバリエーションがあります

リハビリテーション

手術後のリハビリテーションは、まず膝関節の可動域訓練に重点を置いて進めていきます。
膝を伸ばしすぎると靭帯がゆるむリスクがありますが、逆にしっかり伸びないままだと筋力が回復せず、スポーツパフォーマンスにも大きく影響してしまします。そのため、バランスを見ながら慎重にリハビリを進めることが大切です。
また、再建した靭帯は手術後2~3カ月の間に一時的に強度が低下する時期があります。この期間に無理にトレーニングを行うと、靭帯が緩んでしまう危険性もあるため、リハビリの進め方には十分な注意が必要です。

当院では、スポーツ整形外科専門の理学療法士が患者様一人ひとりの状態に合わせて、丁寧にリハビリ指導を行います。個人差はありますが、手術から約8カ月以降に筋力やスポーツ動作のチェックを行い、問題がなければスポーツへの完全復帰を許可しています。

さらに、当院では長年の経験をもとに作成した独自のリハビリプロトコールを活用しており、患者様にわかりやすいリハビリ用パンフレットもお渡ししています。
遠方から来院される患者様も多いため、ご希望に応じて当院以外のクリニック・病院でリハビリを行うことも可能です。その際も、紹介先としっかり連携を取りながら、スムーズにリハビリが進められるようサポートいたします。

(一部抜粋)

外来医師担当表