関節整形外科センターについて

ごあいさつ

関節整形外科センターは、当院の「スポーツ整形外科センター」「人工関節整形センター」と緊密に連携しながら、少子高齢化社会において増加が予想される膝関節障害に対する専門的な治療を目的として、2025年度より新たに設立されました。
患者さまご自身の膝をできるだけ温存し、スポーツや日常生活への早期復帰を目指す「膝関節周囲骨切り術(Knee Osteotomy)」をはじめ、関節鏡視下手術や人工膝関節置換術など、幅広い膝関節の治療を一元的にご提供いたします。

目次

主な対象疾患と治療法

  • 膝関節の痛み・変形に対する治療:人工膝関節全置換術(Total knee arthroplasty: TKA)、膝関節周囲骨切り術(high tibial osteotomy: HTO,distal tuberosity osteotomy: DTO, closed wedge hight tibial osteotomy: CWHTO, distal femoral osteotomy; DFO, tibial tuberosity transposition)
  • 変形性膝関節症の原因となる半月板損傷:関節鏡視下手術、骨切り術
  • 軟骨損傷・膝蓋骨脱臼などの治療:膝軟骨移植術、膝蓋骨脱臼制動術

膝関節周囲骨切り術とは

骨切り術は、O脚やX脚などのアライメント異常が原因で発生する膝の痛み・軟骨損傷・半月板損傷に対する根本的な治療法です。当院整形外科の派遣元である横浜市立大学整形外科では、この手術法を長年にわたって得意としており、多くの実績があります。以前の手術では術後にギプス固定が必要で、日常生活への影響が大きかったものの、近年は内固定材料の進歩により、術後の負担が軽減され、再び注目を集めています。
関節鏡手術のように、数日間から1週間程度の入院期間では不可能ですが、膝関節痛をきたす原因の根本的な原因であるアライメント異常を矯正することで、膝関節の環境を改善し、痛みを緩和できる治療法です。そう遠くない将来的には軟骨再生療法との併用も期待されています。

大腿骨または脛骨の骨切りを行いアライメントを矯正します

患者さんの骨形状に適した内固定材料を使用します

特徴と治療方針

膝関節周囲骨切り術は、すべての膝の痛みに対して適応されるわけではありません。軟骨の摩耗が著しい末期の変形性膝関節症や、関節の可動域が著しく制限されている場合、高度肥満、重度の喫煙歴がある方などには、他の治療法が適しています。
当院では、まず十分な保存的治療(手術以外の治療)を行い、それでも症状の改善が見られない場合に、患者さまにとって最も適した手術方法(関節鏡視下手術・骨切り術・人工関節手術など)をご提案いたします。
膝関節痛に悩むすべての患者さんが、それぞれが望む生活レベル・スポーツレベルに一日でも早く安全に復帰できるよう全力でサポートを行います。

半月板損傷、とくに半月板後根損傷(Medial meniscus posterior root tear: MMPRT)について

近年の研究では、中高年の患者さまが半月板後根損傷を発症することで、急速に軟骨損傷が進行し、膝関節の機能が損なわれることが明らかになってきました。従来考えられていたように年齢とともに徐々に進行するのではなく、急激な機能低下が起こる場合があるため、早期診断・早期治療が極めて重要です。

半月板後根損傷の分類
LaPrade CM et al. Meniscal root tears: a classification system based on tear morphology.
Am J Sports Med 2015;43:363-9から引用

この損傷は特に50~60代の女性に多く見られ、受傷直後の単純レントゲン検査では診断が困難です。階段昇降時などに急激な膝の痛みが発生し、歩行困難になる場合には、MRIによる精密検査を推奨します。放置すると人工膝関節置換術が必要となる可能性が高まるため、早期対応が大切です。

MRI画像 半月板が後根部で断裂(赤矢印)し、内側に逸脱(黄矢印)を認めている

関節鏡画像 半月板が後根部で断裂(赤矢印)している

関節鏡画像 半月板損傷に伴い、軟骨損傷(赤矢印)を認める

骨切り術と関節鏡手術を併用することで、断裂した半月板が修復され、損傷した軟骨も繊維軟骨での被覆されている

手術時間について

骨切り術や関節鏡視下手術を併用することで、断裂した半月板の修復や、解剖学的な膝関節の再建が可能となります。手術時間は治療部位や術式により異なりますが、目安としては、半月板縫合術:約60分、大腿骨の骨切り術:約80分、脛骨の骨切り術:約60分です。複数部位の手術が必要な場合は合計の手術時間となります。
ただし手術する前に麻酔をかけて手術を準備する時間と、手術終了後に麻酔が覚めるまでの時間などもあり、実際にお部屋に戻るまでには+1~2時間程度かかります。

金属インプラントを使用するため、1~1年半後を目安に抜釘術(インプラントの取り外し)を行います。抜釘術後は約3~5日間の入院が必要となり、術後2週間は創部保護のため激しい運動は控えていただきます。

リハビリテーション、入院期間について

リハビリの進行は術式により異なりますが、術後1週目は免荷または部分荷重、2週目以降から徐々に荷重量を増加させ、2~6週で全荷重が可能となります。可動域訓練や装具の使用(ニーブレース)も必要に応じて行います。入院期間は3~6週間程度が目安です。当院は急性期病院のため、術後3週目以降は提携するリハビリ病院への転院をお願いする場合があります。

麻酔方法

基本的には全身麻酔で行い、術後の疼痛緩和目的に硬膜外ブロックや伝達麻酔を併用する事となりますが、当院麻酔科と相談の上、麻酔方法を決定します。

退院後の生活

手術後のリハビリテーションは手術と同じくらい重要です。御自宅でセルフリハビリテーションを行っていただくことが、完治の為にとても大切です。

通院頻度

基本的には1か月ごとに通院していただき、経過に応じて徐々に通院頻度を減らしていきます。調子のよいときでも、できるだけ半年から1年に1回は経過を拝見させていただければと思います。

重労働、スポーツ復帰への目安期間

退院後の日常生活では、手術した部位に過度な負担がかからないよう注意が必要です。骨癒合を認める3か月~6か月程度までは重労働、スポーツ活動は制限が必要です。骨癒合を認めるまでは痛みが続きやすいため、痛みが続くうちは無理をしないことが重要です。 基本的には1か月ごとに通院していただき、経過に応じて徐々に通院頻度を減らしていきます。術後の経過観察として1年に1回は経過を拝見させていただければと思います。

合併症

創部の感染症、創部周囲の痺れ、神経血管損傷、偽関節、将来的な変形性膝関節症の進行等があります。

痛みが再発する場合は

膝関節周囲骨切り術を受けられた患者さんにおいては10年後に2割程度の患者さんが痛みの再発のため人工膝関節全置換術になってしまうとされています。
当院は、変形性膝関節症が進行し、人工膝関節全置換術が必要となった場合についても、責任をもって治療に対応していますので、気になることがあればお気軽にご相談ください。

外来医師担当表