病院紹介

人生の最終段階における医療・ケアの対応指針

Ⅰ はじめに

近年の高齢多死社会の進行に伴う在宅や施設における療養や看取りの需要の増大を背景に、平成30年3月に厚生労働省は、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を改訂した。その目的は、地域包括ケアシステムの構築が進められている現状を鑑み、また近年、諸外国で普及しつつあるアドバンス・ケア・プランニング(ACP:人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス)の概念を盛り込み、医療・介護の現場における普及を図ることである。

当院はこのガイドラインを受け、近年の社会的背景を踏まえ当院としての「人生の最終段階における医療・ケアの対応指針」を策定した。

Ⅱ 当院における人生の最終段階における医療・ケアの基本方針

人生の最終段階を迎える患者とその家族が、医療・ケアチームとの話し合いのもと、患者の意思と権利が尊重され、より良き最期を迎えられるように努める。

  1. 本人が自らの意思を明らかにできるときから、医師などの医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける本人や家族等が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本とした上で人生の最終段階における医療・ケアを進める。
  2. 1回の話し合いですべての合意形成を求めるのではなく、本人、家族等の理解や心情に配慮しつつ複数回の話し合いで意思決定を行う。
  3. 本人の意思は変化しうるものであることを踏まえ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えられるような支援を、医療・ケアチームで行い、本人との話し合いを繰り返し行う。
  4. 本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等の信頼できる者も含めて、本人との話し合いを繰り返し行う。この話し合いに先立ち、本人は特定の家族等を自らの意思を推定する者(代理意思決定者)として前もって定めておく。
  5. 本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、家族等の信頼できる者も含めて、本人との話し合いを繰り返し行う。この話し合いに先立ち、本人は特定の家族等を自らの意思を推定する者(代理意思決定者)として前もって定めておく。
  6. 人生の最終段階における医療・ケアについて医療・ケア行為の開始・不開始、内容の変更、行為の中止などは、医療・ケアチームによって医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断する。
  7. 医療・ケアチームにより、可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、本人・家族などの精神的・社会的援助も含めた総合的な医療・ケアを行う。
  8. このプロセスにおいて、話し合った内容は、その都度文書にまとめておく。
  9. 家族に対するグリーフケアに配慮する。
  10. 生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本指針の対象とはならない。

Ⅲ 指針の対象

本指針における適応症例は、原則以下とする。

進行性慢性疾患や老衰により、回復の見込みがないと判断された患者

Ⅳ 当院の意思決定支援の体制

人生の最終段階における過程では、個々の死生観により死の受入れ方が異なることを踏まえ、患者自身又は看取る家族、代理意思決定者の思いも錯綜し、変化していくものであることを前提に、支援体制を整える。

1. 医療・ケアチーム

  • 構成員:医師、看護師、ソーシャルワーカー、リハビリテーション専門職、薬剤師、管理栄養士、かかりつけ医、訪問看護師、ケアマネージャー、介護関係者など
  • 患者が人生の最終段階であるか、本人が意思を示せる状態か判断し、人生の最終段階における医療・ケアについて話し合いを行う。

2. 倫理コンサルテーションチーム

  • 構成員:精神科医師、救急科医師、看護部次長、各専門看護師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、事務員
  • 医療ケアに係る倫理的問題などについて、医療・ケアチームに対し倫理的課題の整理と助言を行う。

Ⅳ 当院の意思決定支援の体制

人生の最終段階における過程では、個々の死生観により死の受入れ方が異なることを踏まえ、患者自身又は看取る家族、代理意思決定者の思いも錯綜し、変化していくものであることを前提に、支援体制を整える。

Ⅴ 人生の最終段階における医療方針の決定の流れ

1. 患者の意思確認ができる場合

  1. 患者本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、担当医等の医療従事者から適切な情報の提供と説明を行う。その上で本人と医療・ケアチームとが十分に話し合い、本人の意思決定を基本に方針を決定する。
  2. 時間の経過、心身の状態変化、医学的評価の変更等に応じて、患者本人の意思が変化しうるものであることを考慮し、その都度患者との十分な話し合いを行い、意思決定の支援をする。
  3. 患者本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があるため、家族(代理意思決定者)等も含めて話し合いを行う。参加できない場合は本人が拒まない限り決定内容をのちに家族等に伝える。
  4. 話し合いの内容は、その都度文書(Ⅵ.支援の記録参照)にまとめておき、本人が拒まない限り家族等と医療・ケアチームとの間で共有しておく。療養場所が変更される場合、本人の想いをつなぐ目的で地域との連携を図る。

2. 患者の意思確認が不可能な場合

  1. 患者本人による事前指示書(※)がある場合
    ※)事前指示書は「Ⅶ 人生の最終段階(終末期)に関わる用語の定義」を参照

    ①家族等に家族等にそれが本人の意思表明として有効であることを確認する。

    ②家族等、医療・ケアチームとの十分な話し合いにより、本人の意思を基本とし、それを尊重した方針を決定する。

  2. 患者本人による事前指示書が無い場合

    ①家族等(代理意思決定者)が患者本人の意思を推定できる場合には、家族等・医療・ケアチームとの十分な話し合いによって、その推定意思を尊重した、本人にとっての最善の方針をとる。

    ②家族等が患者本人の意思を推定できない場合、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとる。話し合いの進捗・本人の意向により、決定した方針に基づき意思確認書を作成する

  3. 家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、チーム内で話し合い、患者本人にとっての最善の方針をとる。
  4. 時間の経過、心身の状態変化、医学的評価の変更等に応じて、その都度家族等との十分な話し合いを行い意思決定の支援をする。
  5. 話し合った内容は、その都度文書にまとめておく。家族等がいる場合には、可能な限り共有しておく。

3. 医療・ケアチーム内での決定が難しい場合

上記1および2の場合において、方針の決定に際し、

  • 本人や家族等と医療・ケアチームの話し合いの中で、合意が得られない場合
  • 家族内での意見がまとまらない場合
  • 医療・ケアチーム内で合意が得られない場合 等

については、複数の専門家・医療チームによる話し合いの場を別途設定し、または倫理コンサルテーションチームの助言を得て合意の形成を進める。

Ⅶ 人生の最終段階に関わる用語の定義

1. 人生の最終段階(終末期)とは(全日本病院協会、2016)

以下の3つの条件を満たす場合をいう。

  1. 複数の医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断する
  2. 患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得する
  3. 患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考える

2. ACP(Advance Care Planning)とは(日本医師会、2019)

将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、本人を主体に、その家族や近しい人、医療・ケアチームが繰り返し話し合いを行い、本人の意思決定を支援するプロセス。本人の人生観や価値観、希望に沿った、将来の医療及びケアを具体化することを目標にしている。

⼈⽣会議│アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

3. 家族等とは(日本医師会、2020)

法的な意味での親族だけでなく、本人の意思を推定し代弁する者としてあらかじめ本人によって定められた人や本人の親しい友人等、本人が信頼を寄せている人を含む。

4. 事前指示書(Advance directive: AD)とは

患者があらかじめ自身の人生の最終段階における医療・ケアに関して指示している文書。

(1)代理人(自分に判断能力が無くなった際に、自分の医療やケアについて変わりに判断をしてほしい人)、(2)個別的な医療やケアの内容についての自分の意思、(3)その他(鎮痛に対する希望や、最期を迎えたい場所について記載する)などがある。本邦で法的拘束力はない。

※医療現場で尊重されるべきものだが、本人の意思は変化し得るため、しかるべき状況になった時には内容について再度家族等の代理意思決定者と検討する。

参考)事前指示書の様式

5. 本人にとっての最善の方針とは

主観的なものであり客観的な基準によって決められるべきものではない。第一には、本人の意思決定によるものであるが、それが存在しないときには本人の推定意思によることとなる。ACPが実践されている場合は、そこに表れている本人の人生観・価値観を重視し、何が本人にとっての最善の利益で何がそれに沿った最善の方針であるかを判断する。本人の意思決定が不明な場合で、またそれを推定できない場合には、本人のQOLやQODを重視し、何が最善の利益、最善の方針であるかを判断する。

Ⅷ おわりに

意思決定支援の対象者は、年代や病状を問わない。どのような段階であるにせよ、人間的な配慮と尊厳を重視した対応を行なう必要がある。その上で、多職種で患者・家族の意思決定を支え、細やかな配慮をもってそれを受け止め支え続けることが大切である。また、本人の意思決定を尊重した医療及びケアを提供し、尊厳ある生き方を実現するためにも、本人が意思を明らかにできるときから、家族等及び医療・ケアチームと繰り返し話し合いを行い、その意思を共有しておくことが重要である。

<参考資料>
  • 厚生労働省:人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(2018)
  • 全日本病院協会:終末期医療に関するガイドライン(2016)
  • 日本医師会:人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン(2020)

2022年8月22日 第1版作成

2024年6月10日 第2版作成