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心房細動患者に対する抗凝固療法

横浜南共済病院 循環器内科
 部⻑ 鈴⽊ 誠

はじめに

心房細動による心原性脳梗塞は予後不良であり、抗凝固療法による一次予防はきわめて重要な意味をもちます。非弁膜症性心房細動*の抗凝固療法導入は、心原性脳梗塞の発症リスクをCHADS2スコアで評価し、1点から治療を推奨、そのほかのリスク(心筋症、65≦年齢≦74、心筋梗塞や末梢血管疾患などの合併)があれば導入を考慮すること、同等のリスクであればワルファリンに比較して出血リスクが低い非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(DOAC)を推奨することが、日本循環器学会の2020年改訂版、不整脈薬物治療ガイドラインに記載されています。

*非弁膜症性心房細動:僧帽弁狭窄症のない心房細動

一方で、抗凝固療法導入の際、出血リスク評価も重要で、欧州心臓病学会のガイドライン2)では、出血リスクをHAS-BLEDスコアで評価し、3点以上ではより慎重な管理を勧めていますが、CHADS2スコアとHAS-BLEDスコア(表1)の評価項目の3つ(高血圧、脳卒中既往、年齢)が重なっており、心房細動患者の多くが出血リスクを併せもつという点が問題となります。

抗凝固薬を開始する場合、適正使用も重要で、正しい評価ができていても、使用方法に問題があれば、心原性脳梗塞発症を予防できないばかりか、出血の合併症を増加させてしまうかもしれません。

今回、実地医家の先生方に、心房細動患者の特に高齢者に対して合併症を作らずに有効な抗凝固療法をどのように行うか、適正使用をどのように考えるかについて、私見をお伝えしたいと思います。

表1 CHADS2スコア

頭文字 危険因子 点数
C Congestive heart failure 心不全 1
H Hypertension 高血圧(治療中も含む) 1
A Age 年齢(75歳以上) 1
D Diabetes mellitus 糖尿病 1
S2 Stroke/TlA 脳卒中/TIAの既往 2

最大スコア: 6
(Gage BF, et al. 2001 242> より作表)

頭文字 危険因子 点数
H Hypertension 高血圧(収縮期血圧> 160mmHg) 1
A Abnormal renal and liver function(1 point each) 弩機能饂害・肝機能饂害(各1 点)*¹ 1 or 2
S Stroke 脳卒中 1
B Bleeding 出血*² 1
L Labile INRs 不安定な国際標準比(INR) *³ 1
E Elderly (> 65 y) 高齢者(> 65 歳) 1
D Drugs or alcohol (1 point each) 薬剤.アルコール(各1 点) *4 1 or 2

*1 :弩機能陶害(慢性透析.弩移植.血満クレアチニン200 11 mol/L [2.26 mgldl]) .肝機能饂害(慢性肝踪害[Jlf 硬変など]またl胡食査値異常[ピリルピン値>正常上限X2 倍. AST/ALT/ALP> 正常上限X3 倍)
*2 :出血歴.出血傾向(出血索因.苗血など)
*3 :不安定なJNR. 高値またはINR 至週範囲内時間(TTR) < 60%
*4:抗血小板薬.消炎鎖痛薬の併用.アルコール依存症

展大スコア9
(Pisters R, et al. 2010 309J より)
Reprinted from Chest, Copyright (2010) American College of Chest Physicians, with permission from Elsevier.
https://www.sciencedirect.com/journal/chest

リスク因子の評価

脳梗塞発症のリスク評価はCHADS2スコアやCHA2DS2-VAS cスコア、出血はHAS-BLEDスコアにより標準化されていますが、、高血圧、脳卒中の既往、年齢の3つは塞栓症・出血リスクの共通因子であり、どちらのリスクが上回るかをどのように評価するかが問題となる。筆者が考える抗凝固療法を導入するうえで重要な因子(表2)の中でも、高齢者は複数のリスク因子をもつ患者も多く、その管理には十分な配慮が必要となります。

表2 抗凝固法を導入するうえで重要な因子と問題点

①経皮的冠動脈形成術後 抗血小板薬としてアスピリンとクロピドグレルなどの
併用:DAPT
②高齢者 予測できない変化
③心不全 それ自体が予後不良な疾患
④慢性腎臓病 抗凝固療法のエビデンスがない
⑤抗不整脈薬などの併用薬 相互作用

高齢者に対する抗凝固療法の導入

CHADS2スコア1点である年齢(75歳以上)は単独因子として最も脳梗塞発症リスクが高いと報告され3)、実地医家の先生方が多く診療されている後期高齢者に対する抗凝固療法の管理はとても重要といえます。後期高齢者の特徴は、転倒による外傷や骨折、予期せぬ肝腎機能の変化、低体重、合併疾患や併用薬の有無など、個人差が大きく(表3)、頭蓋内出血や消化管出血などを含む大出血のリスクも高いことが挙げられ、認知機能が低下している高齢者の場合は、治療の必要性を家族へ指導することも必要です。脳梗塞予防のベネフィットが出血リスクを上回るための管理法として、血圧コントロール値、腎機能に影響する熱中症のなりやすさの評価法など、まだ確立されていない点も多く存在する。このような高齢者に、出血性合併症を作らず有効な治療を行うためには、高血圧、糖尿病などの生活習慣病は、より積極的に管理しコントロールすること、服薬指導を家族を含めてしっかり行うこと、正確な問診により出血リスクにつながる因子(胃潰瘍の既往、転倒歴など)を確認し、導入を行うことで、抗凝固療法の有効性を高め、合併症を軽減できるものと考えます。

DOACの選択は、投与回数(1日1回か1日2回)、剤形(錠剤かカプセル)、腎排泄・肝代謝などをふまえ抗血小板薬2剤と併用する患者、クレアチニンクリアランスが50mL/min前後などで、用量選択を迷うケースもありますが、患者の状況に合わせて決定します。

表3 高齢者の個人差

①合併疾患 経皮的頚動脈形成術後・心不全
②活動度 転倒、骨折
③腎機能 急激な変化
④認知機能 服薬コンプライアンス
⑤蛋白濃度 蛋白結合率
低蛋白 薬が効きやすくなる
⑥腸管吸収 体内利用率
⑦免疫機能 感染のリスク
⑧併用薬 P糖たんぱくやCYPなどの代謝
⑨低体重 50kg

高齢者に対する適正使用

抗凝固療法の適正使用は、添付文書上の禁忌、効能・効果、用法・用量を基本としますが、抗凝固療法は予防医療であるため、最大限に安全性を確保したうえで、薬効が発揮されるよう選択することが望まれます。心房細動患者を集団でみれば、CHADS2スコアによる心原性脳梗塞の発症リスクを相対的に知ることは可能ですが、目の前にいる患者が本当に予防の必要な患者であるかを判断しなければなりません。一次予防(心原性脳梗塞歴がない)で抗凝固薬を開始した患者が脳出血をきたした場合、患者だけでなく主治医も後悔することになります。そこで、抗凝固療法開始時に、抗凝固薬の選択と用量設定の理由、薬の効果と出血などの副作用、出血を起こさないための日常生活の注意点、出血を起こした場合の対処法などを患者に十分に説明しインフォームドコンセントを取っておくことが重要です。

おわりに

DOACが発売され、すでに10年を超えており、その処方率は向上し、実地医家の先生方も数多く処方されたことで経験値も高くなっていると思います。海外の報告では、心原性脳梗塞の発症率が減少していることが示されています。超高齢社会を迎えているわが国では、75歳以上からDOACを開始するか判断することも多く、海外とは違う管理方法が求められます。これからも、実地医家の先生方によって、多くの心房細動患者に抗凝固療法が普及することを期待しています。