医師の声
J・F (緩和支持療法科)
専門:乳腺、消化器、緩和ケア
「チーム医療」とは、医療に従事する多種多様なスタッフが、各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供することとされています。私どもの施設でもいくつかの医療チームが活動しています。たとえば緩和ケアチーム (PCT)、褥瘡対策チーム、栄養サポートチーム(NST)、呼吸サポートチーム、感染対策チーム(lCT)、口腔ケア・摂食嚥下サポートチームのほか、退院支援チーム、ストマケアなどが挙げられます。その活動の形態はラウンド型、コンサルテーション型とあり、それぞれのチームにあった形態で活動しています。
NST、ICTや褥瘡対策チーム、呼吸サポートチーム、口腔ケア・摂食嚥下サポートチームはそれぞれラウンド型として対象患者や医療者に対し助言などの活動を行っています。退院支援については在宅医療室が中心となって入院患者をスクリーニングし、対象となった患者に対しては医療ソーシャルワーカーや退院調整看護師と連携し退院調整を行っています。ストマケアは術前のストママーキングのチェックや術後のケアのアドバイスのほかストマ外来を開設し患者の相談に乗っています。
緩和ケアチームは主として主治医、受持ち看護師に加え、身体症状を担当する医師 (現在私が担当)、精神症状を担当する医師(精神科医師)と緩和ケアチーム専従看護師(1名)、薬剤師(1名)、臨床心理士(1名)の5名を中心メンバーとしてチームを構成し、さらに内容に応じて麻酔科医、管理栄養士、理学療法士・作業療法士、医療ソーシャルワーカー、皮膚・排泄ケア認定看護師などもチームに加わり相談に対応しています。平成22年までは専従看護師がいなかったためか、依頼件数は少なかったのですが、平成23年の4月から専従看護師が1名確保できた影響もあり、依頼される件数は増加しています。また専従看護師の配置によって、患者の情報がより早く我々チーム担当医師やその他のメンバーに伝わることでチームメンバー間の協議が迅速に行われるようになりました。このことにより今までと違って現場では専従看護師の助言のもとでの迅速な観察、検査、対応などが行われるようになってきた感があります。我々としては忙しくなる半面、今まで以上に深く関われることで我々チームの力も向上していると思います。
またチームカンファランスを通じて、患者の抱える多岐にわたる問題点が浮かび上がることもあり、他の医療チームの協力を得て、協同してケアを行うケースも増えています。さらに新たに「緩和ケア外来」も開設し、入院中関わった患者さんが退院した後も外来で継続してケアを提供したり、外来通院中の患者さんのケアに関して相談に乗ることができるようになっています。
このように、当院ではいろいろなチーム活動が行われており、それぞれが必要に応じて連携しつつ患者・家族のケアや医療者に対する助言などを行っています。
またこれらの医療チームの活動を推進する担当委員会は、主として院内職員に対し教育活動も行っていますが、これからは地域を視野に入れ、教育活動の範囲を広げていくことも検討課題と考えています。
急性期病院として「病院から居宅へ」という流れの中で、居宅への受け渡しをするためにはどうしても患者・家族の抱える多くの問題 (身体的、社会的な問題など)を解決の方向へと導くことが必要です。今までの医療はまず主治医の指示があり、それに多くのコメディカルが従いケアにあたってきた医療でした。しかし患者・家族の抱える問題は主治医だけでは掘り起こせず、また解決できなくなってきているのが現状です。
この数年、日本においても医療の複雑化、細分化が進み「チーム医療」の重要性が叫ばれてきています。私自身も 2007年に東京で開催された「チームオンコロジーセミナー」に参加してから、より具体的に当院でできる「日本型のチーム医療」を構築し実践していきたいと考えるようになりました。
私自身が考える「チーム医療」を推進する鍵は【相互理解による信頼関係の構築】にあると思っています。特に各医療チームと主治医・受持ち看護師間の信頼、並びにチーム内の職種間の信頼と相互理解という二点が必要だと考えます。そのためには何が必要でしょうか ?それは「チームカを上げる」努力だと思います。
「チームカを上げる」― それには
- 自己研鑽(研修、教育)
- 情報共有と発信(カンファランスの重要性とツールとしての院内LANの活用)
- 活動内容の評価
- コメディカルのリーダーシップ
- コミュニケーション能力
- 「患者の価値観」と「医療者の価値観や使命感」の間のギャップヘの対処(特に緩和ケアの世界では重要です)が重要と考えています。
どんなに知識が豊富で経験があっても他の職種の人たちと情報共有できなければケアの質は向上しません。患者に対して提供したケアの成果を客観的に評価し改善していかなければチームとしての成長はありません。一社会人としてのコミュニケーション能力がなければ患者・家族からは信頼を得られず情報は取れませんし、どんなに正しい医療・ケアでも患者のQOL(生活の質)に寄与しなければ自己満足にすぎません。またそれぞれの職種の方々も研鑽に励み多くの知識・経験を有して専門性を生かしています。チーム医療でケアにあたる場合、特にあなた方を含めた専門性のある知識が現場で求められています。それを生かすためには医師以外の職種の人も主治医などに対し情報提供やケアの方向性を指示できるようなリーダーシップが取れる環境を作ることも必要です。また、患者の持つ問題点を明らかにするには自分の仕事の役割を少し超えて患者を見つめることで気付くこともあるでしょう。そのことで真に多職種が手を携えてケアにあたることができる場合もあると思います。
多職種チーム医療を広めていくには、一人の患者に対して同じ目標を持ちつつも、時と場面によりチームの中心となる職種が異なり、それぞれがその専門性を発揮することを認めるチームであり続けること、更にそのような志を持った各医療チームが必要に応じて協同して一人の患者・家族のケアに当たることが大事であると思います。また、このようなチーム医療を支えている人々は必ずしも院内の医療者だけではありません。我々の周りには事務職の方や病院ボランティアのほか、在宅医、病院、訪問看護ステーションや介護施設、製薬会社、医療用機器や医療材料製造販売企業、メディア、行政など様々な人々がいて、彼らのささえがあってチーム医療が成り立っている事を忘れてはなりません。
こうして職種を超えた信頼を築き、チームとして信頼されるケア・医療の提供ができる病院、「この問題は○○さんに相談してみよう。」と言われるようなメンバーで構成されるチームが院内で多数活動する病院を目指していきたいと考えています。
自分には高い専門性はない、と思っているあなたにも人より少し勝るところは必ずあるのです。『私は人の話を聴くのが得意』とか『いつも笑顔を絶やさない』という才能もチームで活動する病院には必要です。皆さんももしよろしければ私たちと一緒に働いてみませんか ?